「 原理主義 」 という言葉
宗教学や宗教研究、あるいは中東地域研究者のあいだでは、 「 原理主義 」 という言葉 を、できるだけ用いないようにしよう、というのが 広い合意を得ています。
その理由は、この言葉には、あまりにも否定的なニュアンス ( 狂信的で、破壊的で、暴力的で、、、云々 ) が つきまとっているからです。
特定の運動/現象をこの言葉で名づけてしまいますと、もう最初っから バカにした感、、、頭がおかしくて、粗暴で、野蛮な連中といった前提、、、があからさまになってしまう、というわけです。
日本語で 「 原理主義 」 だと、まだよいのです。
問題なのは、欧米語です。 fundamentalism なんて言う場合です。 欧米諸語の語感からしますと、上のようなバカにしたニュアンスはかなり強くなってしまいます。 つまりそういった場所では、この言葉は ハナッカラ 悪口、蔑称 なのです。
学会内では 比較的早い段階から この言葉づかいの問題が指摘されておりました。
そのせいかどうかは知りませんが、最近になって、マスコミもそれに同調しつつあります。 たとえば、テレビ・ニュースや大手新聞などで、ハマスは 「 イスラム過激派組織 」 と言われるのが、最近の通例です。 これは さほど悪くない呼称だ、と僕などは思うわけです。
さらに専門的になりますと、 「 イスラーム主義組織 」 などとなりますが、業界外の方には なんだか 分かったような分からないような 言葉でありましょう。
※ イスラム、、、ではなく、イスラームである点にも注意
※ 「 イスラーム主義 」 という言葉の説明は こちら 参照。
留意点:
- もちろん、蔑称だと分かって、この言葉を使うのなら、それはそれで いたし方のないことです。ただ、言葉のニュアンスがあまりよく理解されていないのだとしたら、問題があります。
- 「 イスラム原理主義 」 という言葉が、最初から暴力性を前提としているため、より平和的な部分への注目が、自動的に弱くなってしまうことは、大きな問題です。 たとえば、ハマスに社会福祉部門があることはよく知られたことです。パレスチナは極端な事例なので、なかなか 「 平和的 」 ということが言いにくいのですが、他のイスラーム諸国、諸地域には、かなずしも暴力的ではないような 「 イスラーム復興 」 の潮流もあり、それが 「 イスラーム主義 」 (政治的で、ときに過激化するイスラーム的運動 ) と重なりあっています。 「 原理主義 」 という言葉は、そういった側面を、なにか付け足しのような、二次的なものとしてイメージさせてしまいかねません。
こうした背景がありますので、先便 で J-WAVE が 「 原理主義 」 という言葉をためらわずに使っていた、とご報告したわけです。
※ J-WAVE の名誉のために言っておきますが、僕は このラジオ局の報道センスを、さほど疑ってはいません。その他の番組などでは、実に丁寧なニュースj解説がなされています。まぁ、、、全体的に保守的なのは仕方のないことですが、、、
言葉狩り は実にくだらないことです。
僕も 「 原理主義 」 という言葉を一切使うな!! なんて言いたいわけではありません。
※ むしろ、この言葉を、比較のための分析概念として定義しなおそうとした、臼杵陽 『 原理主義 』 ( 岩波書店、1999年 ) を、高く評価する書評を書いたこともあるぐらいです。
ただし、、、
- 言葉づかいが誰かを苦しめる場合があるわけで、そのあたりの事情だけは、ちゃんとおさえておくべきだ、、、と思います。
- 言葉づかい次第で、よりよい理解が遠くなったり近くなったりするので、ちゃんと考えておいてもよいだろう、、、と思います。
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コメント
なるほど。主張されたいことは良く分かりました。
ただ、「イスラム原理主義とはどういう意味か」という定義について補足説明して頂くと、近藤さんの思想の土台がはっきりして御主張をさらに理解しやすくなると思います。
投稿 右京 | 2006年2月 1日 (水) 08時21分
右京さま>
コメントありがとうございます。お返事がおそくなり、失礼しました。
なるほど、ご指摘のとおり、私の「原理主義」定義を書いておくべきかもしれませんね。
その定義については、このブログで何度も紹介してきた 私のある論文で公にしたことがございます。
いま その論文が手元にないので、自宅に戻りましたら、新しいエントリを立てて、お答えとさせていただきます。
(いま帰宅途中の漫喫におります)
投稿 コンドウ | 2006年2月 2日 (木) 00時15分
原理主義の問題は世俗化の問題だと理解します。それが終末論的宗教なら更に危険です。
G.ブッシュを支持するキリスト教原理主義者が、中東で核戦争を起こし、世界の終末を現在化しようとしてゐることにより、イスラム原理主義が台頭して来てゐるならば、凡ての原理主義に反対しなくてはならないでせう。
原理主義の危険を、宗教と云ふギリシア語にも日本語にも本来存在しない言葉によつて覆ひ隠すことのないやうにするのが学者さんの勤めではないでせうか。
投稿 あがるま | 2006年3月 3日 (金) 08時42分