宇宙開闢の歌
こちらのエントリ につづけて・・・
辻直四朗 『 インド文明の曙 』 ( 99-100頁 ) よりの引用
[ 注: ルビは一部を省略、他を括弧内に示した。ママの括弧もある。漢数字はアラビア数字に変えた ]
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宇宙開闢の歌 ( 10・129 )
1 その時 ( 太初において ) 、無もなかりき、有 ( う ) もなかりき。空界もなかりき、そを蔽う天もなかりき。何物か活動せし、いずこに、誰の庇護の下 ( もと ) に。深くして測るべからざる水 ( 原水 ) は存在せりや。
2 そのとき、死もなかりき、不死もなかりき。夜と昼との標識 ( 日月星辰 ) もなかりき。かの唯一物 ( 創造の根本原理 ) は、自力により風なく呼吸せり。これよりほか何物も存在せざりき。
3 太初において、暗黒は暗黒に蔽われたりき。一切宇宙は光明なき水波なりき。空虚に蔽われ発現しつつありしかの唯一物は、自熱の力によりて出生せり。
4 * 最初に意欲はかの唯一物に現ぜり。こは意 ( 思考力 ) の第一の種子なりき。聖賢らは熟慮して心に求め、有の親縁を無に発見せり。
* 後の文献と比較して考えれば、展開の順序は、唯一物 ―― ( 水 ) ―― 意 ―― 意欲 ―― 熱力 ( 瞑想・苦行により体内に生ずる熱で、創造力をもつ ) ―― 現象界 、となる。
5 彼ら ( 聖賢 ) の縄尺は横に張られたり。下方はありしや、上方はありしや。射精者 ( 能動的男性力 ) ありき、展開者 ( 受動的女性力 ) ありき。自存力 ( 本能・女性力 ) は下に、衝動力 ( 男性力 ) は上に。
6 誰か正しく知る者ぞ、誰かここに宣言し得る者ぞ。この展開はいずこより生じ、いずこより来たれる。諸神は宇宙の展開よりのちなり。しからば誰か展開のいずこより起こりしかを知る者ぞ。
7 この展開はいずこより起こりしや。彼 ( 最高神 ) は創造せりや、あるいは創造せざりしや。最高天にありて宇宙を監視する者のみ実にこれを知る。あるいは彼もまた知らず。
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超有名な詩歌ですが、なかなか全文を目にすることもなかろうと思い、ご紹介しました。
辻先生 の解説に曰く
宇宙がいかにして生じ、誰に創造されたかの問題は、次第に [ リグ・ヴェーダの ] 詩人の関心をひくにいたった。 最初は建造或いは出産になぞらえて神話的に扱い、その業績をもろもろの神格に帰して讃歎するにとどまった ( 91頁 ) 。
時代の進むにつれ、宇宙創造の勲業を一身に担い雑然たる神界に君臨する最高神、或いは、万有の本源として宇宙開闢の初頭に立つ唯一絶対の根本原理を探求する傾向が強まった ( 92頁 ) 。
そして、上の讃歌は、 「 宇宙の展開を、絶対の唯一物、中世の根本原理に還元し、創る神と創られる世界との対立や間隙を一掃し、リグ・ヴェーダの哲学詩人の到達しえた最高峰を示している 」 ものとして、高く評価されています ( 98頁 ) 。
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