ヤマとヤミーの対話
こちらのエントリ で紹介した 辻直四朗 『 インド文明の曙 』 (101-2頁) より・・・
リグ・ヴェーダの対話讃歌 のひとつ。 オモシロ。翻訳も秀逸。七五調。
[ 注: ルビは一部を省略、他を括弧内に示した。ママの括弧もある。漢数字はアラビア数字に変えた ]
「 ヤマ 」 とはもちろん 閻魔大王のことである。 (→ こちら や こちら 参照 )
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ヤマとヤミーの対話 ( 10・10 )
ヤマは死者の王、死の道の開拓者。本篇は双生児ヤマ ( 語義は 「 双生児 」 ) とヤミー ( その女性形 ) との対話に託し、人間の繁殖の起原に触れつつ、詩人は不倫のそしりを避けて結末をあいまいにしている。
1 ( ヤミー ) 遙けく遠き海越えて、去りし友 ( ヤマ ) をも動かして、友の務めにいざなわん。地界の末を思いつつ、賢き者は父のため、孫生み育て残すべし。
2 ( ヤマ ) 友の務めといいながら、同じ血筋のはらからが、妹背 ( いもせ ) 契るはなが友の 許さぬ願い、おそろしの アスラの子ら ( ヴァルナ神の配下 ) は勇ましく、天を支えて地を見張る。
3 ( ヤミー ) この世に人は汝 ( な ) れ独り、跡目望むはわれのみか、神の心もまた同じ。かたくな捨てて 汝が心、われになびけて背の君の 深き契りを結べかし。
4 ( ヤマ ) かつてためしのなきことを、いかでか今に許すべき。おもてにまこと語りつつ、かげにひがごと囁くや。 * われらが父はガンダルヴァ、水の乙女を母とする、これぞこよなきわが由緒。
* ヤマの父は普通ヴィヴァスヴァットとされる。水の乙女は、半神族ガンダルヴァの配偶たる水精アプサラスを指す。
5 ( ヤミー ) われらが胎 ( はら ) にあるうちに、すでに夫婦 ( みようと ) と定めしは、あらゆる形造りなし、生気をこむるトゥヴァシュトリ ( ヤマの母サラニウーの父 ) 。誰が違 ( たが ) わんその掟、神も許せし妹背仲、天さえ地さえ知るものを。
6 ( ヤマ ) この世の始め誰か知る、誰が見たりし、今ここに誰か告げ得んその秘密。ミトラ、ヴァルナの神の則 ( のり ) 、気高く浄く世をしるを。みだらの妹よ、 * 神の子を 言葉たくみにいつわるや。
* 第2詩節に見えるアスラの子ら。
7 ( ヤミー ) ヤマにこがるるこのヤミー、つもる思いを添伏 ( そいぶし ) の、なさけの床に契りなん。心も身をもまかせては、廻る車の輪のごとく、仲むつまじくたわむれん。
8 ( ヤマ ) 神のめつけは束の間も、休むことなく見めぐりて、眼 ( まなこ ) を閉ずるひまもなし。みだらの妹よ、われをおき、あだし男にいいよりて、廻る車の輪のごとく、仲むつまじくたわむれよ。
9 ( ヤミー ) 夜と昼との分かちなく、恋しきヤマにかしずかん。くまなく照らす日の神の眼もしばしくらまさん。見よ天地 ( あまつち ) も妹背仲、ヤマの恥じらう契りさえ、いとわず堪えんこのヤミー。
10 ( ヤマ ) 聞くもうたてきはらからの 恥ずべき契りいとわざる 末世もいつかめぐりこん。汝れが腕 ( かいな ) に牡牛なす 男 ( お ) の子抱きしめわれをおき、あだし男と契れ、妹。
11 ( ヤミー ) 弱き乙女をいたわらず、情を知らぬ兄やある。女子 ( おなご ) の務めゆるがせに、血筋ほろぼず妹やある。乱れ心も恋ゆえに、くどく言の葉ききわけて、妹背の契り結べかし。
12 ( ヤマ ) 妹背の契り結ぶまじ。おのが妹 ( いもと ) を妻とせば、われあしざまにそしられん。恋のうま酒われをおき、あだし男とくみかわせ、兄はかなえじ汝が願い。
13 ( ヤミー ) 心おくれしヤマあわれ、汝れが心の深なさけ、求めて得ねばままよまま。馬の腹帯、蔓草 ( つるぐさ ) の、木にまくごとくあだしめが、汝れのからだを抱きしめん。
14 ( ヤマ ) 離れじものと蔓草の、木にまくごとく汝が寄れば、あだし男は汝れを抱く。おくるなさけの露しげみ、かえすも同じ深なさけ、たのしき妹背契れかし。
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以上です。 オモシロですよねぇ・・・
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