暴力への異様な嫌悪
前のエントリ からつづく
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中沢先生も大好きな M・セール ―― 彼は ハイデガーをすっごく警戒している
そこに とてつもない悪の影 を見ているからだ
一方 中沢先生が ハイデガーを評価するときの留保には、 セールほどの異様さ が欠けている
もっとも深遠な哲学からもっとも危険な政治的存在が出現してしまうことの恐ろしさを、 二〇世紀の歴史は実証してくれました (有名なハイデッガーのフライブルク大学総長就任の演説には、 この危険があからさまにしめされています)。 さまざまな 「人食い」 がいなければ、 人類の思想はついに凡庸の水準を抜け出ることはなかったでしょう。 そうすれば、 ソクラテスもヘーゲルもニーチェもハイデッガーもいなかったでしょう。 しかし、 凡庸を抜け出たところには、 危険が待ちかまえています。 そのことを、 対称性社会の人々は、 知り抜いていました。 シャーマンから見たら首長などは、 なんと凡庸なのでしょう。 ところが、 人間の社会にとっては、この理性の限界内に断固としてとどまる首長の存在こそが、 重要なのです。
深遠と安全の間に、 絶妙なバランスをつくりだすこと。 首長と 「人食い」 たちを分離しておくこと。 これこそが、 対称性社会の抱いた最大の知恵であり、 人間が国家を持った瞬間から、 とりかえしのつかないかたちで失ってしまった知恵にほかなりません。
『熊から王へ カイエ・ソバージュⅡ』 (講談社,2002年) 186-87頁
あるいは、これから数年前の次のような発言
中沢 ―― そうです。 精神世界の本と、 ハイデッガーのナチズムの問題は、 つながっています。 と言うのは、 ラカンなどの思考のもとになっている存在や、 ナチズムに傾倒した時期のハイデッガーは、 やっぱり実存主義、 グノーシス的なところがあると思うんです。
絓 ―― 「死」 を前にした 「決意性」 といった考えもそうですね。
中沢 ―― ところがナチズムを経過してハイデッガーは大きく変わってきて、 グノーシス的な要素を自分で切って行こうとします。 そこが、 僕には、 非常に関心のあるところだし、 興味がある。
いとうせいこう ・ 絓秀実 ・ 中沢新一 『それでも心を癒したい人のための精神世界ブックガイド』 (太田出版,1995年) 20-21頁
セールから見えるハイデガー、、、 中沢から見えるハイデガー、、、
この差は、 とっても微妙だ
一見すると 無視してかまわないもののようにも見える
しかし、 そこにはやはり、 とても深いギャップが あるのではなかろうか
字面の引用や解釈だけではあらわせない、 哲学や思想が生え出てくる 底 ・・・
そんな場所が 思想と思想家のいろいろなことを 決定づけているように思われる
そして僕は、 (大いなる尊敬と愛情をもって) ちょっと ノイローゼなんじゃないの、、、 と思えるほどの、 暴力に対する セールの むき出しの 異様な嫌悪感に 強く強く 共感するのである
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【メモ】
清水高志さんの次の著書
- 『セール、 創造のモナド ―― ライプニッツから西田まで』 (冬弓舎,2004年)
中沢先生が 長めの前書きを寄せている (そういことをなさるのだから、 前書きの内容は もちろん! 手放しの賞賛だ)
僕はまだ読んでいないが、、、
はてさて、、、 暴力の問題をめぐって (とくに、ハイデッガーと同じ 第二次世界大戦にあらわれた、あの暴力の固まりをめぐって) セールと西田がどのようにつなげられているか、、、
注意して読んでみてよいポイントだろう
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<つづく>
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