貧困の世俗化
2009年11月29日付 朝日新聞 朝刊に
- スティーヴン・M・ボードイン 『貧困の救いかた: 貧しさと救済をめぐる世界史』 (伊藤茂訳, 青土社, 2009年9月)
の書評が載った。 評者は 広井良典先生
ネット上でも読めるので、 下にコピペしておきます
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僕がこの書評で注目したのは
- 以前の世界では、 貧困は各地域におけるローカルな原因 (自然災害や戦争、分配システムなど) によって生じるとともに、 様々な宗教が貧困の理解や対応において主要な役割を担っていた
- このこととパラレルに貧困観と貧困救済の 「世俗化」 が生じ、 国家の役割が大きくなっていく
- 近代以前の時代にキリスト教、 仏教、 イスラームといった諸宗教が貧困にどう対してきたかといった視点や議論は、 福祉の思想や原理が問われるこれからの時代において新たな意味をもつのではないか
などの指摘である
つまりは 《貧困なるものの》 の世俗化!
これぞまさに 堂々たる 「世俗の宗教学」 のテーマ!
ぜひ読んでみたい本です
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http://book.asahi.com/review/TKY200912010182.html
貧困の救いかた ― 貧しさと救済をめぐる世界史 [著] スティーヴン・M・ボードイン
[掲載] 2009年11月29日
[評者] 広井良典 (千葉大学教授・公共政策)
■原因と構造を掘り下げる試み
貧困や格差に関しては、 既に多くの議論や研究がなされている。 そうした現状を明らかにし、 改善のための政策を提案し実行していくことは今後ますます重要となるが、 同時に、 そもそも人間の歴史において 「貧困」 というものがどのように生成し対応されてきたかを、 時間軸と空間軸を含む大きな視野の中でとらえ返し、 その根本原因や構造というべきものを掘り下げていく作業が求められている。 本書はまさにそうした関心に応えようとする試みである。
本書の原題は 「世界史の中の貧困」 だが、 著者は特に紀元1500年前後の時期を大きな分水嶺 (ぶんすいれい) とする。 それは 「貧困がグローバリゼーションのプロセスと密接に結びついている」 からであり、 それ以前の世界では、 貧困は各地域におけるローカルな原因 (自然災害や戦争、分配システムなど) によって生じるとともに、 様々な宗教が貧困の理解や対応において主要な役割を担っていた。 「新しい世界経済」 が始動する1500年ごろからそうした状況は大きく変容し、 工業化と帝国主義によって特徴づけられる次の時代にそれはさらに加速し、 現在に至るが、 その中心軸は貧困が経済のダイナミズムと強く結びついていったことだった。 このこととパラレルに貧困観と貧困救済の 「世俗化」 が生じ、 国家の役割が大きくなっていく。
著者が重視するもう一つの基本線は、 これらの全体を通じて、 貧困の理解においても、 その解決の方向においても 「西洋的なアプローチ」 が支配的になっていったことであり、 それは工業化や 「開発」 の意味を含め 「西洋のヘゲモニーの勝利」 と不可分のものだったとする。
国内的な貧困や福祉国家をめぐるテーマと、 グローバルな貧困問題を一つの視座の中で論じた書物は珍しい。 また、 近代以前の時代にキリスト教、 仏教、 イスラームといった諸宗教が貧困にどう対してきたかといった視点や議論は、 福祉の思想や原理が問われるこれからの時代において新たな意味をもつのではないか。 多くの新鮮な視点を提起する本だ。
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伊藤茂訳 / Steven M. Beaudoin 65年生まれ。 米国のセンター・カレッジ准教授。
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