資本制とは 「持続的生産の拡大をもたらす経済システム」 である
前便 「近代国家と資本主義システム」 より つづく
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- 竹田青嗣 『人間の未来: ヘーゲル哲学と現代資本主義』 (ちくま新書, 筑摩書房, 2009年2月)
「持続的生産の拡大をもたらす経済システム」 として資本制
という竹田先生の理解を説明しておりました
そのつづきです
近代に至るまで商業はさまざまな仕方で発展したが、 それはほとんど地域的な交換と分業の拡大にとどまり、 普遍交換-普遍分業の持続的なサイクルにまでは進まなかった。 普遍交換-普遍分業のサイクルが持続的な拡大を続けるためには、 「普遍消費」、 つまり増大した生産財が広範な民衆によってたえず消費される、 ということが不可欠だからである。 それがなければ、 増産された財は、 “売れ残り”、 交換も分業も縮小していくことになる。
105-6頁
しかしともあれ、 こうして、 近代の 「市場システム」 の本質のもう一つの側面が明らかになる。 自由市場システムは、 普遍交換と普遍分業の相互促進的拡大だけでなく、 近代国家が人々を市民として解放することで、 「普遍消費」 という局面を新しくひらき、 さらに近代科学と技術の急速な進歩が分業の質を飛躍的に高めることで、 はじめて産業 「資本主義」 へと転化するのである。
財の普遍交換と普遍分業 (つまり生産テクノロジーの進歩) の相互促進という構造が、 普遍消費に支えられることによって、 はじめて人口をはるかに超える財の生産を可能とする経済システムを作り出した。 これが、 近代国家の政治システムを支える土台としての経済構造である。 しかし、 ここで交換と分業の相互促進が 「普遍消費」 に支えられる、 ということの意味はきわめて重要である。
109-10頁
以上紹介してきたことが 3点にまとめられている箇所
長くなりますので、 下に別に引用させていただきます
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まず第一に言うべきは、 近代の政治システムの基本的な設計図が、 近代哲学者によって構想されたということ。 しかしそれは自由主義=資本主義システムという新しい経済システムを土台としてはじめて可能となった。 普遍交換と普遍分業の相互促進が社会の生産性を爆発的に増大させ、 そのことがはじめて財の希少性を解消し、 人民の 「自由」 (享受と消費) の解放の前提条件を作り上げたのである。
第二に、 マルクスは資本主義における資本の増殖の秘密を、 「剰余価値」 と 「剰余労働」 という概念から捉えようとした。 そこに含意されているのは、 資本家による労働者の 「搾取」 ということ、 すなわち資本主義システムに含まれる 「欺瞞性」 「詐取性」 「幻想性」 ということである。 だが、 剰余価値の概念は、 なぜ利潤が資本家に帰着するかを説明するが、 社会の富の持続的な増大という資本主義システムの社会的な本質を説明するわけではない。 社会全体の富の増殖の理由は、 普遍交換と普遍分業の相互促進という概念で考えるのがより妥当である。
第三に、 マルクスによる資本主義システムの “不可能性” の理論は、 決定的な仕方では 証明 されず、そのため多くの理論から反駁されることになった。 「搾取」 の概念について整理すると、 第一に、 もし 「搾取」 が ないこと が正当であるなら、 つまり資本家が労働者に 正当な 対価を支払うなら、 資本主義システム自体がなりたたない。 第二に、 現在では、 だれもが資本家にも労働者にもなれるというルールがある限り、 基本的には、 社会全体が 搾取 を正当化していると主張することは難しい。
111-12頁: 傍点は太字で示した
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