負担免除と自由― 「社会をハッキング」とまで言うなら (2/2)
前便 「負担免除と自由― 「社会をハッキング」とまで言うなら (1/2)」 より つづく
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- 神成淳司 + 宮台真司 『計算不可能性を設計する: ITアーキテクトの未来への挑戦』 (ウェイツ, 2007年4月)
前便 から連続している部分です
神成先生の発言 一段落分をまず再録します
で、 その次の第二段落からが あらたな引用部分です
神成 ● 濃密なアーキテクチャのほうが純粋に楽しいですよね。 グーグルアースなんて、 採算を考えたら気が遠くなりますよ。 グーグルは無料で提供していますが、 オープンソースコミュニティが同じことを実現するのであれば、 「地図は公共の財産だから、 無料で寄贈してくれ」 ということになって、 実現は難しい。
それでは、 実現したとしても、 世界中というわけにはいかないでしょうし、 地図の更新も滞りがちになるでしょう。 実現するために要する時間もずっと長くなる。 イノベーションには実現するための時間を短くすることがとても重要で、 だらだらやっていたらイノベーションなんかなくなってしまう。
実際のところ、 グーグルにしても、 グーグルアースに取り掛かる段階で、 どれだけ役に立つかなんて計算できないわけです。 初めての試みだから、 正確な予測なんてできるわけがない。 それで、 あれを実現するエネルギーはすごいと思います。
そうして実際に実現されると、 いままでコンピュータが嫌いだった中高年齢層の人たちが、 「今日はインド旅行へ行ってきた」 なんて話すような状況が出てくる。 びっくりするほどの感動をグーグルアースは創出している。 このおもしろさがなければ、 やはり駄目なのです。 単に透明化すればよいというものではない。
このほかに、 日本政府主導で進められた地方自治体の電子化に関する議論でも、 気になる点があります。 全国の自治体が一ヵ所のデータセンターに共同でシステムを構築すれば非常に安価で利便性も向上する。 それは事実です。 引っ越しも何もかも簡単に終わる。
実際に米国では、 このような取り組みを進めています。 「オープンソースだからできた」 と言う人もいますが、 「それは嘘だろう」 (笑) と思います。 このようなアーキテクチャをつくるのに、 オープンソースかどうかなんて何も関係がない。 データ構造とインタフェース仕様を明らかにすればよいだけです。
では、 このように一ヵ所で自治体サービスを行うべきか。 確かに費用面やシステム的な面だけで考えればこれが正解でしょう。 だが、 これは、 日本全国の 「プチ東京」 化を促進する。 地域ごとの特質は減少し、 平準化社会となる。 一極集中も促進されるでしょうし、 窓口サービス向上を求めて職員一人ひとりが走り回るなんてこともなくなるわけです。
宮台 ● それはオープンソース概念の誤用ですね (笑)。 ソースがオープンかクローズかではなく 「集中型アーキテクチャ」 か 「分散型アーキテクチャ」 かという選択です。 「均質化による効率」 を重視するか 「多様化による共生」 を重視するかという選択です。 多様性を護持するには過剰流動性のブロックが必要になる道理です。
現実を知ればそんなことは一瞬でわかります。 利便を要求する島民の声で沖縄の離島に橋が架かるとどうなるか。 一日二便の船しかなかった頃にはだれがいつなぜ本島に出かけるのかすべてわかった。 橋が架かった途端に誰がいつなぜ本当に出かけるか完全に不透明化し、 共生を支えた相互扶助プラットフォームが崩壊してしまう。
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