《神秘の東洋》、あるいはラジニーシ、マハリシ、瞑想、 タントラ、 スーフィー、チベット
前便 「ラム・ダス 『ビー・ヒア・ナウ』 (原1971年)」 より つづく
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著者 ヒュー・ミルン氏 が 《神秘のインド》 といかにして出会ったか――
この問いには すでに 前便 までの連続記事で
あらかた答えてしまったように思います
1938年生まれのミルン氏は
シュタイナー学校に通い
カレッジでニューエイジ/ヒッピー運動の洗礼を受け
就職後しばらくして さらにその道を突き進み
『ビー・ヒア・ナウ』 からラジニーシという
いわば 《神秘のインド》 グループとしての王道を進んだ
ということができると思います
本便では、 氏とラジニーシとの出会いを紹介しますが
《神秘のインド》 表象という観点からしますと
むしろ それは最後の仕上げといったものになりましょう
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そんなるとき、 友人のビルが瞑想をやってみないかと誘ってきた。 疑い深いスコットランド人として育った私にはちょっと抵抗があった。 以前に心霊学とか水晶占いだとかインドのファキールといったオカルト運動を覗いてみたことはあったが、 いずれもうさん臭いものだったからだ。 しかしビルの誘いはしつこかった。
36頁
ミルン氏は 《インド》 を 無条件に賛揚していたのではない
そのことが この段落からわかる
その前には使われていなかった 「オカルト」 という語も
そのことを指示していると見てよいかもしれない
ともあれ、 ミルン氏は 「ビル」 の押しに負けた
と言っても、 そのお誘いは翌日の朝におこなわれる
「ダイナミック瞑想」 のセッションへの参加
ということだったのだから、 ミルン氏の抵抗も
さほど長い期間 つづいたものだったわけではない
翌朝、 参加者十名が 建物の二階に入ると
「ヴィーナ」 と名のる女性がいた
ビルは説明した
「彼女はボンベイからもどったばかりでね、 バグワンという男から世界最初の瞑想センターを作れという命令を受けているんだ。 ヴィーナの首飾りに彼の写真がぶら下がっているから見てごらんよ」
同
ミルン氏の第一印象――
彼の写真に目を向ける。 ビートルズが一時期ついていたマハリシにそっくりだなというのが私の第一印象だ。 穏やかないい顔をしているじゃないか。 もじゃもじゃの髭の中でモナリザみたいに微笑んでいる。 でも、 僕はほんとに朝一番からこんなことをしたいのだろうか。 ちゃんと瞑想するためには朝五時に起きなければいけないとヴィーナは言う。 やれやれ。 でもヴィーナってかわいいよ、 すごくかわいい。 それにあの薄いローブの下のお尻はとてもセクシーだ。
37頁
瞑想セッションがはじまった
ラジニーシの場合、 瞑想といっても かなり激しい
過換気呼吸、 感情発散などのステージがある
それらが終わると、 ラジニーシの講話がカセットで流される
[…] 最後にヴィーナは線香に火を点けた。 立ちのぼる煙が部屋の空気の中で渦を巻いた。 これから仕事にでかけるおだろう。 何人かが立ち上がり、 静かに会釈してカーテンの向こうに消えていった。
何もかもが神秘的な雰囲気に包まれていた。
38頁
ここで いよいよ 「神秘的」 という語が登場する
肯定的なニュアンスが そこには含まされている
とみて 間違いなかろう
ミルン氏の最初のセッションはこうして終わった
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早朝の瞑想をつづけていくにつれて、 すべてのことがシンクロしているような、 歩調を合わせているような感じが強まってきた。 カセットでバグワンがタントラという古代の哲学について語るのを聴いたのと同じ頃、 ロンドンのサウス・バンクのヘイワード・ギャラリーでタントラ美術の大展覧会が開かれた。 展覧会にでかけて私はなつかしさで一杯になった。 自分がこのような美術を創りだした人々に属する人間であるかのように感じられた。 それからウェスト・エンド・シアターでスーフィーの旋回舞踏の公演が行われた。 それは非常に優美で霊感に満ちており、 私に何か重要なことを語りかけているようでもあった。
その頃、 ネヴィルという謎の男にも会った。 彼はチベットから骨董品の絨毯をラバの荷車でひそかに持ちだすことに情熱を傾けているようだった。
「街の連中がオフィスで一日をどのように過ごしているかなんて興味ないな」 と彼は私に語った。
「あんたがラクダを連れてサハラ砂漠を横断したら、 話を聞いてみたいがね。 さもなきゃ黙っている方がましさ」
38-39頁
こうした文化情況を ミルン氏は
人々が神秘の東洋を再発見して興奮していた (39頁)
と表現している
話題は 当時同時に進行していた 《性の自由化》 にうつる
《神秘のインド》 表象を追いかけている本連載にとっても
その動きは大切だが
(なぜなら、 その二つは欧米で密接につながっていたから)
今回はメモ書き程度にしておこうと思う
<つづく>
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