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2011年7月28日 (木)

20世紀の「モダン」、 あるいは技術化した「モダン」と人間の「ピュシス」 ※ 『女は存在しない』 読書メモ②

ちょいと長くなりますが、 引用させていただきます

繰り返しますが、2011年8月28日に予定している

『女は存在しない』 読書会のための参考資料です ( ..)φメモメモ

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 「モダン」 は物事の具体的なあらわれの奥に手をつっこむようにして、 その奥から物事の本質を、 抽象的な 「魂 (Spirit)」 のようなものとして、 取り出そうとしてきたのである。 こうしう精神の誕生を準備したのは、 十八世紀からのロマン主義であるけれども、 「モダン」 はそのロマン主義をも踏み越えて、 豊かな具体の世界を解体してでも、 その奥に隠されているはずの 「真理」 を、 世界の表面に一挙に顕在化させようとする衝動に、 さまざまな表現をあたえてみたいと考えたのだった。

 そのとき、 具体の学であったサイエンスが 「現代科学」 に、 具体の世界の表現の技であったアートが 「現代美術」 へと、 それぞれの変貌をとげたのだ。 相対性理論も量子論も、 具体的に目に見える世界の常識が、 そのまま物質の世界の真理をあらわしてはいない、 と宣言した。 セザンヌや印象派の画家たちも、 もう山や蓮や水面を、 以前からの風景画家のように写実的には描かない。 キャンバスに描かれたサン・ヴィクトワール山は、 山の景色ではなく、 画家の目の前の具体的な山の姿をしたものの奥から立ち上がってくる、 なにものか抽象的な生命の運動へと、 本質を変えてしまっている。 「モダン」 は、 具体的な世界の奥に科kされてあるものを顕在化させようとする、 大規模な精神の運動として、 十九世紀の末に西欧にあらわれ、 たちまちにしてサイエンスとアートに革命をもたらすのに成功したのだ。

 しかし、 ここで道は大きく二つに分かれたのである。 […]

 支配的な大きな街道と、 その街道をそれて草原や森の中に分け入っていくかぼそい小道の、 二つの道が、 このとき生まれたのだ。 一方の大きな街道をリードするのは、 「技術的思考」 と呼ばれるものである。 技術の思考は、 自然と生命に信頼を抱いていない。 ももとそれは、 自分にとっては捜査と観察の対象にほかならないものだったし、 物事の具体性の奥から取り出された抽象的なエネルギーや生命の内部に、 自発的な原理にもとづいてみずからの秩序をつくりだしていけるような、 なにかの 「理性」 ないし 「超理性」 が働いているなどとは、 考えることもできない。 そうあんると、 新しい 「モダン」 の世界は、 人間や自然に対して、 外から合理主義的な秩序をあたえることによって、 つくりだされなければならないことになる。

[…]

 しかし、 そのような街道からそれて、 かぼそい小道が走っていることを、 忘れてはならない。 その小道は同じ 「モダン」 から生まれながら、 生命と存在への信頼によって、 技術的思考のつくりだす 「モダン」 とは、 決定的に異なる道を開いてきた。 そして、 あの大きな街道を支配しているのが技術の思考であるとするならば、 この小道の主催者ことは、 「現代美術」 を生み出してきたあおの精神にほかならない。

[…]

 技術やサイエンスは、 その瞬間に立ち上がってくる抽象的ななにものかを、 即座に数値に還元してしまおうとする。 ところが 「現代美術」 はいっさいの還元主義に抗して、 その瞬間の出来事の意味を、 まるごととらえようとする。 具体の世界を破って立ちあらわれてきたこのものは、 自分の内部に、 生産する力と形を生み出すゲシュタルトの原理を宿している。 そのことを、 全霊をこめて信頼し、 進んでその中に自分を投げ込んでいく ―― そういう精神が、 「現代美術」を生み出し、 いつかき消されてもおかしくないほどに細いこの小道を、 これまで守り抜いてきた。 それは 「モダン」 の精神のもっともふくよかな潜在力を表現してこようとしたのである。

「校庭に舞う金の鳥」 『女は存在しない』 376-80頁 (原1998年)

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