日本の近世における世俗的な秩序化
佐藤弘夫ら(編) 『概説 日本思想史』 (ミネルヴァ書房, 2005年) は
古代の思想・中世の思想・近世の思想・近現代の思想の4部からなる
各部の冒頭には 「概説」 がおかれている
「近世の思想」 の概説 (136-42頁) は 田尻祐一郎先生の筆による
そこでは 「世俗生活」 をキーワードに
「世俗的な秩序化」 なる事態が略述されています
以下引用――
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中世までの人々は、恐ろしい物の怪やおどろおどろしい怪異の力、人知を超えた神仏の霊異の中に生きていた。合理的な思考や人生の冷徹な観察も、そういう怪異・霊異の世界の中で、それを前提にして獲得されていた。しかし中世の後期から近世にかけての巨大な社会変化は、世俗生活の意味を決定的に大きくし、怪異や霊異の力を、あるいは呑み込み、あるいは周辺に追いやっていくことになった。ここで言う世俗生活とは、職業を持って継続的に家族生活を営み、子や孫の成長を楽しみとし、近親の者の死を見取り、ほどほどの娯楽を味わい、自分たちの生活の安定や向上を何よりの価値として生きることである。そういう俗塵の中の暮らしは、迷いや執着として否定されることなく、人間らしい積極的な意義を持つ生き方として力強く肯定された。宗教をはじめ政治や経済など、人間の活動のあらゆる領域が、この世俗生活の側から価値づけられるようになる。世俗生活の円滑な持続のためには、社会に安定した秩序が保たれなければならない。その秩序は、超越的な宗教的世界から説明されるのではなく、世俗生活にとってそれがどのような意味を持っているのかという点から説明されるようになる。
近世に始まって今日に至るこのような傾向を、世俗的な秩序化と名付けることにしよう。近世の思想を理解するには、まず世俗的な秩序化の構造を知る必要がある。
136頁: ルビは省略
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なお、 本書での 「中世」 は およそ11世紀~16世紀
同じく 「近世」 は およそ16世紀~19世紀
つまり、 戦国時代から江戸時代の話 ということです
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